祐介先生、牟田さんこんばんは。
今夜は最初に転倒して舌の左半分がちぎれそうになってしまった2歳児の患者さんを紹介したいと思います。
康二先生の友人にカメラマンがいます。ハローアルソン・フィリピン医療ボランティアで何回もフィリピンに行ってくれていますのでご存じの人も多いかと思います。1月12日、日曜日の夜9時を過ぎた頃です。康二先生から私のところに電話がありました。「お父さんも知っているミッチーの知人の子供なんだけど、転倒して舌を噛み切ってしまって出血している。いろいろな病院に連絡しているのだけれど、どこも診てくれなくて困っているという連絡があったんだけど、どうしよう?」というので、「すぐに来てもらったらどうか」と伝えました。受話器を戻しながら困っている母親の悲しそうな姿が目に浮かびました。
電話をかけている私のすぐそばにいた飼い主さんも慣れたもので「私も一緒に行きますね」と言ってすぐに支度をして二人で診療所に向かいました。とはいっても自宅から200メートルくらいしか離れていませんからすぐに診療所に着きました。時折泣きじゃくりながら舌を切ってしまった男の子が母親に抱かれてユニット(診療台)に座っていました。
康二先生から「ここに来るまでに出血は止まったようだけどどうする?」と報告を受けました。口の中を見せてもらうと出血はしていないけれど傷口が大きく開いてしまっているので、縫った方がいいと判断して麻酔をすることにしました。
舌を切った時から大声で泣いていたせいもあって疲れ切ってぐったりしていました。大きな、それでいて可能な限り優しい声で「今から注射するからね。ちょっと我慢してね」と声をかけながら注射をしました。案の定足をバタつかせて泣き始めました。
傷口は舌の先端から3センチほどの所で中央よりやや右から左にかけて、深さは5ミリ以上、左側は舌の下が一部ついているだけでそっくり切り離されていました。
2歳児ですからopeの途中で泣き叫んでしまう可能性が高いため指サックで口を固定させて、先ず中央を縫い合わせました。そのまま縫合糸を前方に引っ張った状態で舌の側縁部を縫い合わせました。次に引っ張ってもらっていたすぐ隣を縫い合わせ、最後にその右側を縫い合わせ、全ての糸の余った分を切り取りました。
縫合を始める前から睡魔に襲われていたのか、ほとんど泣くこともなく処置が終わりました。痛み止めと抗生物質を出して終了です。
救急病院でも診てもらえなかった子供がこれで心配なくお母さんも休んでもらえたと思います。康二先生と「これが最後の砦になるということだぞ」と話をしました。私が目指してきた医療とはどんな時でも頼ってくれる人がいる限りどんなことでも対応できる歯医者になることです。こんな形で私の「術」を見てもらえたのも「縁」だなと思わずにはいられませんでした。
2025年1月17日 医学博士・歯科医師 林 春二