祐介先生、牟田さんこんばんは。
今年も早いもので残すところ2ヶ月になってしまいました。祐介先生、関口団長、岡山県の木元先生、フィリピンの事前調査ご苦労様でした。お三方のお陰で活動がスムーズに出来、安心してこちらでの準備が進められます。
先週の放送の中で祐介先生が言っていたように「出来ることしか出来ない」ということは本当のところですが、「なんとか良くしたい」とか、「折角やっているのだからなんとかしたい」という気持ちだって生まれてきたっておかしくありません。これが欲望という邪魔者でこういう気持ちが湧いてくると事故につながります。私達に本当に必要なことは「他者のために誠心誠意やり尽すこと」だと思います。そういう意味で今夜は私の後輩が、末期癌患者の京子さんと言う方が診療に来た時のことをフェイスブックに載せてありましたので紹介します。
以前、僕が大学出たての頃、何もできない僕に、車椅子を旦那さんが押しながら来院された乳癌末期の患者、京子さんの前歯のレジン充填をする機会を与えられた経験がありました。当時の僕にその患者の背景を見る余裕もなく、今から考えれば本当に情けなく思います。その患者さんは、翌日に亡くなりました。実はその患者さんは死に化粧の為に、来院されたことを知りました。死ぬ直前まで、歯ブラシを欠かさなかったそうです。最近、僕の医院では、何故かやたらに癌で余命あまり永くない患者さんが多くなっている気がするのですが、ほとんどの患者さんは、死ぬ前にもう一度、健康な歯で美味しいものを食べたいので、しっかりと治して欲しい、歯の治療を励みにして、生きる目標と希望の糧としたいと。よく、歯科は医科よりも軽んじられやすく、人の生き死に関係ないように思われますが、実は生き死に関わる医科のもう一つ上の次元に位置する分野だと思うのです。つまり、日常生活に直結した有機的部分に関与した分野を受け持つのが、歯科医療だと思うのです。ただ、残念なのはこの事に気付いている歯科医師がどれだけいるのか、また、それに向けての教育を受けた歯科医師が、どれだけ存在しているのかという事が問題だと思うのです。シンプルに患者さんの為にどれだけ真剣に向き合って治療に取り組むか、再度、多くの歯科医療に携わる関係者の皆様に問いたいと思います。
この患者さんの術前術後の口腔内写真を撮ったか後輩に聞くと撮っていませんと言うことでしたので、それでは次の日曜日にもう一度来てもらおうとスタッフに電話してもらうと既に亡くなっていました。闘病中の人、高齢者は流れ星のごとく終の時を迎えてしまいます。まさに「一期一会」の瞬間だったと言えます。そのご主人も奥さんの京子さんの後を追うように星の国に旅立ってしまいました。お二人はもちろん私達に関りがあった全ての皆様のご冥福を祈りたいと思います。
2023年11月3日 医学博士・歯科医師 林 春二