祐介先生、牟田さんこんばんは。
朝夕の涼しさが増してしのぎやすくなりました。こちら軽井沢のここ2、3日の涼しさはとても強くなって、昨日の患者さんの家では「昨夜ストーブを出しました」という人もおりました。私の家でも昨日の朝、私の飼い主さんから「春二さんストーブ出しましょうか」と言われ、夜には小さめのストーブを出し、今年初使用しました。
有名な星野温泉のトンボの湯のすぐ東側の山の中に鶴溜という有名な別荘地があります。その東側の山を下ると、更に有名な旧軽井沢銀座があります。ここは標高1,000メートルあたりにある軽井沢の中でも一番高い所にあります。そこに別荘がある患者さんは、とても寒くて小さなストーブではだめだから石油ストーブにしたいのだけれど、90歳を過ぎてから力がなくなって灯油の入れ替えが出来ないので、今週末に東京へ帰る前に治療を受けに来てくれました。右側の下の第二大臼歯当たりの咬合痛があるということで、フィットチェッカーで診査をして最終調整をしました。自分の歯の場合には「この歯」と確認できますが、歯がなくなると「この辺り」と大まかになってしまいます。実際に噛むときも、自分の歯だけで噛むときは何不自由なくしっかり噛むことが出来ますが、入れ歯になってしまうと、噛むたびに硬いものは噛みにくかったり、少し粘り気のあるものだと入れ歯が浮き上がったり、外れてしまったり、自分の歯とは全く違ってしまいます。その最大の原因は自分の歯は顎の骨と歯根膜でつながれています。硬いものでも粘着性の高いヌガーのようなものでもびくともしないで噛めます。この歯根膜という組織は台風の時、舟を岸壁にしっかり結びつけるロープのような働きをしているので、ヌガーのような粘着性の高い物でも動かなくなります。そうかと思うと、上顎の犬歯と下顎の犬歯の先端で少し力を入れて噛めば、糸を切ることも出来ます。糸の代わりに自分の髪の毛を一本抜いて、犬歯で太さを確認すると、髪の毛の根元と先端の太さの違いが確認できます。このようnごくわずかな太さの違いを判別する能力は人間の身体の中で、歯根膜が一番繊細だと言われています。歯を特定できるのも、「歯根膜」のお陰です。何でも気持ちよく食べられるのも歯根膜があればこそです。ところが自分の歯を抜いてしまうと、この歯根膜がなくなってしまい「そこが痛い」とか「その部分です」という感覚を失って、「その辺り」というような大まかな表現になってしまうのです。フィットチェッカーで確認すると、入れ歯に当たって痛みを出している場所と範囲が確認できます。それでも障害を持った高齢者は、自分で痛いと言えないために食が細くなって体力を失ってしまう人や、健常者であっても力が出せなくなって自分では分かっていても出来なくなることが多くなります。福祉というのはこういう弱い立場、弱くなってしまった人を助ける力になります。弱い人が楽しく生きられる社会は、強い人にとっては更に楽しく生きられる共生社会になります。
2022年9月23日
医学博士・歯科医師 林 春二