祐介先生・牟田さんこんばんは。
ケガはその後順調に快方に向かっているでしょうか。入院のように一日管理してもらっていると先生の指示に従えますが、家に帰って自己管理になると、分かっていてもやってはいけないことをしてしまうものです。この1か月間は心を滅して、素直に先生の言う通りに静かにしていてください。それが祐介先生のためになります。
私達が患者さんにハミガキの大切さを伝えても、なかなか効果が上がらないのは、患者さんが「しっかりやろう」というスイッチを押しきれていないからです。分かっていてもやってもらえなければ効果は出ません。ハミガキの効果が上がらない人がいると、その責任を患者さんのせいにしたがりますがそうではないと思います。私達の説明が、どんなに「詳しく微に入り細に渡った」としても、患者さんの心の琴線に触れなければやってもらえないのです。ふざけて説明しているように思えても患者さんがやる気スイッチを押してくれたら、必ず歯肉はプッチンプリプリになってくれます。兄弟や姉妹であっても、顔や背丈が違うように考え方や感じ方はそれぞれ違います。本に書いてあることを「通り一遍」に説明しても患者さんの琴線を揺るがすことは出来ないでしょう。家に帰ってからでも、「患者さんにしっかり歯磨きをしてもらうためにどうしたらいいのか」考えるのです。そうした熱意や努力が説明するのに味をつけるのです。自慢するわけではありませんが、私は朝風呂に入りながら「あの人のハミガキはどうやろうか」やり方を考えながらハミガキしています。来る日も来る日もこういうことの連続の上で、ようやく私の説明をよく聞いてくれるようになった気がします。人が違ったのではないかと思うほど良くなる人がいる反面、泣きたくなるように全く説明が通じない人も出ます。こうした苦しみや悩んだ経験が、いつの日かジワジワと患者さんの心に響くようになって、ある日突然きれいになった歯肉に出会う幸運に恵まれ、思わず飛びつきたくなるような喜びに襲われるのです。「ローマは一日にして成らず」動かないようでもカタツムリのようにコツコツと歩を進めることが大切なのだと思います。
ハローアルソン・フィリピン医療ボランティアも全く同じです。毎年2月には現地に行って活動しますが、そのために歯ブラシ・タオル・石鹸を少なくとも3,000人に渡す量が必要になります。一人当たりタオルが3枚、歯ブラシが20本、石鹸が2個の他に、その年台風の被害があれば、緊急支援のための物資も同じだけ確保しておかなければなりません。これを一度に集めようとしてもとても無理です。会う人ごとに声をかけ協力してもらうしかありません。声を掛けたら全員が協力してくれるわけでもありません。その人に「この人のやっていることなら協力する」と言ってもらえる人になるよう、努力を怠ったら駄目です。歯磨き指導で患者さんのやる気スイッチを押してもらえることと全く同じです。
2021年4月16日
医学博士・歯科医師 林 春二